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なぜアメリカのキング郡のEMSが世界で一番と言われているのか2016.07.29

世界でも救命率の高い地区
アメリカのワシントン州にあるキング郡とは

皆さんはアメリカのワシントン州にあるキング郡という地域をご存じでしょうか。

このキング郡の北西部には、野球チームシアトルマリナーズの本拠地としても有名なシアトルがあります。シアトルは郡庁所在地としてワシントン州の中で最大の都市であり、スターバックスコーヒーやアマゾン、マイクロソフトなどの企業が本社を構えている事でも有名です。また、フィジオコントロール社の本社所在地でもあります。

世界でも突然心停止の救命率が高いと言われるこのキング郡について今回はご紹介したいと思います。

キング郡の人口はおよそ207.9万人(2015年)、キング郡の広さは茨城県の面積を少し小さくした位の大きさです。シアトルがあるキング郡の心停止の救命率はアメリカで一番と言われ、2013年のキング郡の心停止の救命率は62%、同時期のニューヨーク、シカゴといった他の大きなメジャー都市の救命率が1桁台(10%以下)と報告されているのため、キング郡の救命率の高さが際立っていることが判ります。

この救命率の高さは住民にとってとても心強い事でしょう。もし、あなたがこのキング郡に住んでいて、今突然、心停止を起こした場合、あなたの命が助かる可能性は他の地域と比べてはるかに高いのです。

キング郡長官のダウ・コンスタンティンさんは「今日、キング 郡で心停止から一命を取り留めた人達は、きっとほかの地域住んでいたら彼らの命は助かってないだろう。」と自信を持って言っています。

キング郡における突然心停止の高い救命率の背景には、地域全体の人々(救急指令室、ファーストレスポンダー、消防、警察、救急隊、救急センターなど)が科学的根拠に基づく一貫した医療方針によって整備された地域のシステムに支えられていて積極的に活動している事によるものだと考えられています。

キング郡での救命率向上の為の5つの取り組み

2002年に27%だったキング郡の心停止における救命率は、2013年には前代未聞の62%となり救命率は劇的に高まりました。

救命率の向上で効果を上げている理由は、下記のようなキング郡の地域戦略と市民が連携して取り組んだことにあるようです。

①救急隊員による質の高い心肺蘇生法で救命のチャンスを高める
②救急通報を受けた電話オペレーターによるCPR(心肺蘇生法)の口頭指導
③域内で100以上の公共施設にAEDを設置したり、キング郡保安局も含めた多くの警察車両等にAEDを配備といった公共の場へのAEDの普及
④地域住民のCPRトレーニング受講率の高さ
⑤国の標準を凌駕する救急トレーニング認証者数の多さ

これらの取り組みによって、キング郡ではバイスタンダー(その場に居合わせた人)によるCPRを実施する確率がとても高くなっているのです。

2014年のキング郡のアニュアルレポートによると、バイスタンダーによるCPRの実施率は72%、その内訳は救急通報を受けた救急指令室の電話オペレーターの口頭指導によるCPRが41%、口頭指導のないCPRは31%で、電話オペレーターによるCPRの口頭指導は人命救助にとても役立っています。

911(日本では119番)の電話オペレータ―は迅速な心肺停止の判断や、電話でCPRの口頭指導ができるようにトレーニングを受けています。

除細動を開始する時間が1分遅れることに、命の助かる割合は7%~10%低下しますので、救急通報を受けた電話オペレーターによるCPRの口頭指導によって一般市民が、救急車の到着までの間、1秒でも早くCPRを開始することで救命率の低下を少しでも防ぐことができます。
米国救急医学会会議(ACEP)は電話オペレーターによるCPRの口頭指導で心停止の救命率が上昇するとの研究を発表しています。

実は、電話オペレーターによるCPRの口頭指導を提供する計画は、1981年にこのキング郡 から始まり随分前から着目されていたのです。

また、日本の「JRC蘇生ガイドライン2015」でも119番通報した際に電話を切らずに指示を仰ぐ事を求めているように、消防の通信指令員による口頭指導の役割の重要性が強調されているのです。

次に住民へのCPRのトレーニングについては、キング郡の緊急医療サービスディレクターのミッキー・アイゼンバーグさんは、キング郡の住民の約75%のはCPRのトレーニングを受講していると言っています。

キング郡は学校でも、グレード6~2 (おそよ中学生から高校生)には年間、約18,000人の生徒にCPRのトレーニングを行っていて、教育機関でのCPRトレーニングにも力をいれています。

では日本の現状はどうなのでしょうか。

平成27年度版の総務省消防庁の救急の現状によると「平成 26 年中に心原性心肺機能停止状態で救急搬送された傷病者のうち、一般市民が目撃した傷病者は2万 5,255 人あり、そのうち一般市民が心肺蘇生を実施した件数は1万 3,679 件で54.1%の人がCPRを行っていて、CPRが行われた傷病者の社会復帰者数は10.8%」と報告されています。

日本の一般市民による心肺蘇生をの実施は緩やかに伸びています。これは上記のような、一般市民へのCPRトレーニングの普及も一因かもしれません。しかし、救命率はまだ高いとは決して言えません。

日本では、救急車の現場到着時間が年々遅くなっていると問題になっています。

その為、キング郡で実施してきた行政と地域住民が早期CPR実施を実現するための環境づくりが日本でも重要になると考えられます。

キング郡についてもっと詳しく知りたい方は是非、キング郡のウェブサイトを訪れてみてください。

http://www.kingcounty.gov/

(参照)
http://www.kingcounty.gov/depts/health/news/2014/May/19-cardiac-survival.aspx
https://www.m3.com/open/clinical/news/article/292330/
http://news.heart.org/cardiac-arrest-doesnt-have-to-be-death-sentence/
http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/kyukyukyujo_genkyo/h27/01_kyukyu.pdf
http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/houdou/h27/12/271222_houdou_2.pdf